TCAD(Technology Computer Aided Design)は、LSIやトランジスタの製造過程や電気伝導に関する物理・化学現象を表す方程式を解いてトランジスタや半導体回路の特性をシミュレーションして予測することで、LSIの設計開発の効率化を実現する技術です。半導体の物理や化学現象を扱うCAD技術という意味でTechnologyが付いています。
「方程式を解いてトランジスタや半導体回路の特性を予測」というと難解で、最先端LSIの開発にだけ使われる技術と思われがちです。しかし、十分な実測データが蓄積された世代の半導体製品を開発する時にも、豊富な測定データとの比較を通じて計算精度を高めることが出来るため十分な威力を発揮します。実際、半導体メーカーが組織する委員会STRJ(Semiconductor Technology Roadmap Committee of Japan)は、TCADの様なシミュレーション技術は「新世代技術の開発だけでなく派生品開発への効果も大きいと認識されている」との調査結果を発表しています。
図1
加工バラツキに対する耐性を高める構造の検討
製造工程で避けられない加工寸法のバラツキがあってもON/OFF特性への影響が少ないトランジスタを作るといった問題を解決する時にTCADが役立ちます。

TCAD技術を使って問題解決をした具体例は、半導体メーカーの技術報告資料や学会等で数多く報告されています。たとえば、製造過程で生じるある加工寸法がバラついてもON/OFF特性に影響が少ない様につくるにはどうするかを検討したり、トランジスタに入射したα線や放射線の飛跡に沿って発生した電荷によって回路が誤動作するかの判断や誤動作を防ぐ工夫の検討、デジタルカメラに使われるCCD(Charge Coupled Device)などの受光素子に入射した光で発生する電子を効率よく収集させるためのマイクロレンズや構造設計、隣接するトランジスタの配置によって熱工程後に受ける応力でトランジスタの電流-電圧特性がどう影響されるか、など様々な場面で、半導体製品の開発に寄与しています。
図2
CMOS等の受光素子4画素分の構造鳥瞰図(中央)、断面図(左)、画素に光が入射した時の断面での光強度分布(右)。
画素上部や内部のレンズ形状設計に役立ちます。

この技術を活用することで、半導体製品を開発する際の詳細な技術内容をいつでも再現できる形で蓄積でき、担当者間だけでなく部署にまたがって正確な情報が共有出来ます。また、技術者が短期間でより広範囲の事柄を経験をする事が可能になり、モノ作りに必要なノウハウや技術の継承にもつながる技術といえます。
図3
SOI(Silocon On Insulator)トランジスタ(上部の薄い板状部分)に垂直に放射線が入射して発生した電子が両端の電極に吸収される様子(入射直後から1nsecまで)

半導体素子は今後も微細化する事で高性能化を続けるため、その設計・開発に使われるTCAD技術も微細化技術と密接に連携して、製造工程の調整や設計開発に役立つ様にシステム化されます。そのためには、物理・化学の基礎知識、数値計算、計算機利用技術など広い範囲の技術を身につけた技術者を結集して始めて可能になり、この意味で総合的な技術といえます。